不登校の中学生をもつ保護者の方にとって、「勉強の遅れ」は大きな心配ごとです。その不安から、手軽に始められる通信教育を検討する方も多いでしょう。
しかし、通信教育は決して万能ではありません。自己管理が苦手な子にとってはハードルが高く、親が学習管理をすることでかえって関係が悪化してしまうケースもあります。
この記事では、通信教育のメリットだけでなく、見落とされがちなデメリットと注意点を専門的視点から整理し、迷っている保護者の方が冷静に判断できるよう、必要なポイントを詳しく解説します。
中学生の不登校で通信教育を選びたくなる理由!親の不安と期待のメカニズム

不登校が続くと、多くの保護者が「このままでは勉強が遅れてしまう」という強い不安に包まれます。
学校に行かない日が増えるほど、学習内容は積み上がりません。特に中学生の場合、高校受験への心配が重なり、その焦燥感はさらに高まります。
その結果、「何か手を打たなければ」という気持ちから、手軽に始められる通信教育に目が向きがちです。教材が自宅に届き、オンラインで授業が受けられ、学校に行けていなくても“何かをしている安心感”が得られます。
しかし、この心理の背景には行動経済学でいう 「損失回避」 が働いています。
人は「得をしたい」気持ちよりも「損をしたくない」気持ちのほうが強く、勉強の遅れ=損失を避けるために、判断が急ぎがちになります。
また、保護者自身が「何かをしてあげている」という実感を得ることで、罪悪感や不安を和らげたいという心理もあります。通信教育は“手段”であるにもかかわらず、親の不安を解消する“心の薬”として選ばれてしまうことがあるのです。
しかし、その選択が本当に子どもの状況に合っているかどうかは、冷静に見極める必要があります。
通信教育を始める前に理解すべき4つのデメリット

通信教育は、誰にでも合う学習方法ではありません。
特に不登校の中学生にとっては、合わないケースも多いと支援現場では指摘されています。
もちろん通信教育が合っている子もいるので、その子が「やってみたい」と言うのであれば通信教育に挑戦するのはとても良いことだと思います。
ただ、通信教育と相性の良くない子もいるので、その場合は「また続けられなかった」と自己肯定感が低下しないように保護者が気をつけてみてあげることも大事だと思うのです。
通信教育を始める前の知っておくべきデメリットを以下で挙げていきます。
【通信教育のデメリット①】高い自己管理力が求められる

通信教育は「自分のペースでできる」のがメリットであり、最大のデメリットでもあります。
人は「現在の楽な選択を優先する(恒常性)」という心理特性を持っています。なので、そもそも自力で勉強し続けられる方が珍しいのです。
しかし通信教育の宿題が進まなかったり、つい「今日の分は明日やればいい」と思ってしまったりして、気づけば教材は積み上がります。
そして課題が溜まると…
- 「今日もできなかった」と自己肯定感が下がる
- 「もう無理」と負の感情が強くなる
- 親が口を出す→親への反発、自己肯定感がさらに低下
という悪循環に陥ることが多いのです。
そのため、通信教育を始める前に「そもそも続かないのが普通」と親が心構えしている方が良いです。
【通信教育のデメリット②】親が指導係になって関係悪化しやすい

通信教育は、学習をサポートする大人がいないため、親がその役割を担おうとすることが多いです。
しかし、親が指導係になると、家庭内の空気が一変します。
- 「やったの?」
- 「サボってるでしょ」
- 「なんで続かないの」
このようなやり取りが増えると、親子の信頼関係にヒビが入ります。
心理学で「ロールコンフリクト」と呼びますが、子どもにとっての親の役割が「優しく支援する立場」と「厳しく教育する立場」という矛盾・対立があると、子どもが大きなストレスを抱えることがあります。
当協会でも保護者の方には「お子さんには父性と母性を使い分けましょう」と指導します。これがまさにロールコンフリクト対策なのです。
通信教育する際は、親が過干渉にならないようにすることが大事です。
【通信教育のデメリット③】人間関係の経験が不足する

中学生の時期は、社会性を育てる重要なタイミングです。オンラインだけでは得られない経験があります。
- 賛成・反対の意見交換
- からかい・すれ違い・仲直り
- 集団の中での立ち位置を理解する
人間関係が不安な子ほど、少しずつ社会経験を積むことは必要です。
通信教育だけに頼ると社会経験が不足しやすいため、別のクラブ活動などで補ってあげるサポートが重要だと思います。
【通信教育のデメリット④】生活リズムが乱れやすく高校進学で困ることがある

不登校の子どもは、生活リズムが崩れやすい傾向があります。学校に行かないことで、朝に起きる必要性を感じにくいからです。そのようなときに、通信教育で生活リズムを整えるのは難易度が高いです。
通信教育は良くも悪くも時間を自由に決められるため、逆に生活習慣の改善につながりにくいのが現実です。
そして、いざ学校へ戻る、あるいは高校に進学するとなった時、朝の登校習慣がないことで大きな負荷が生じます。
全日制高校に進む場合、この生活リズムの乱れが大きな壁になるケースが多いのです。
通信教育が難しい子の特徴

不登校の中学生は、通信教育が逆にその子を追い詰めることにもなりかねません。そのため、あらかじめその子と通信教育の相性をイメージしておくことが大切です。
通信教育を検討する前に、まずは以下をチェックしてみてください。
- 宿題を期限内に提出できていたか
- 朝の起床は安定しているか
- 自分から取り組む習慣があるか
- 指示に反発しやすいか
- ゲーム・スマホの使い方を自分で制御できるか
- 親から言われたことに対して強いストレスを感じやすいか
これらの項目に複数当てはまる場合、通信教育は継続はハードルが高く子どもを追い込んでしまう可能性があるため、親御さんの対応の仕方を気をつける必要があります。
さらに親御さんが完璧主義だった場合は、ついお子さんに勉強を強いようとして関係性が悪化しないように注意する必要もあります。
通信教育が合う子の特徴

ここまでデメリットを多く挙げてきましたが、通信教育がすべて悪いわけではありません。
以下のようなタイプの子には相性が良いこともあるので、前向きに検討してみても良いでしょう。
- スモールステップで達成感を得たい
- 外出が難しい時期のつなぎとして学びたい
- タブレット学習が得意
- マイペースにコツコツと取り組める性格
中学生の不登校時、勉強よりも大切なこと

実は不登校の中学生が学習・学力よりも先に整えるべきことがあります。
その3つについて、以下で説明して行きますね。
親子関係の安心感

不登校の支援現場で最も重要視されているのは、家庭が安心できる場所になることです。
心理学では、安心感があると 「自己調整力」が回復し、行動が前向きに変化しやすい とされています。
ただし安心しきって「親は何をしても許してくれる」と思い、財布からお金を抜いたり平気で約束を破るような安心感ではいけません。親への尊敬も伴うような、お互いに信頼できるような安心感があることが大事です。
生活リズムの安定

学校に戻る、社会に戻るための基盤は「生活リズム」です。
- 朝起きる
- 昼に活動する
- 夜に寝る
このサイクルが整わないと、記憶の定着も効率が悪く、精神的にも不安定になりやすいとも言われます。そのため、勉強も大事ですが、生活リズムを整えることは体力・気力・学力全体に良い循環を生み出しやすいです。
「昼夜逆転しているけど、朝に起きるのが難しそうだからとりあえず勉強の遅れだけでも先に解決した方がいいのでは」という保護者は多いのですが、不登校の現場で十数年見てきた経験から言うと、それは遠回りだと思うのです。
生活リズムを整えること、これが全ての基本だと思います。
学校に行くこと

保護者の多くが誤解しているポイントがあります。それは、通信教育ができるようになれば再登校できるのではないかということです。
例えば「勉強の遅れが原因で学校に行きたくないのだから、勉強の遅れが取り戻せたら学校に行けるのではないか」という考え方です。これは、本当に良くある考え方ではありますが、誤解だと思っています。
実際、通信教育で学習の遅れを取り戻すことは自律力がある子以外は難しいです。さらに、仮に学習の遅れが取り戻せたとしても、学校に戻れない子が多いです。なぜなら、不登校の本当の原因が勉強の遅れではなく、自己肯定感・自己効力感の低さや自信のなさだからです。

以前担当した子が「勉強ができないから、先生にあてられるのが怖くて授業を受けたくない」と言っていました。しかし勉強をたくさんしても、いつまでも教室に入れませんでした。
そこで人の目が気にならないような認知行動療法のカウンセリングをして「間違うのは恥ずかしいことじゃない」「周りを気にしない、気をラクに」という考え方を身に着けた結果、登校できるようになりました。
親は「勉強ができれば再登校できるはず」と思ってしまうことが多いのですが、実際は勉強の遅れで不登校になるケースは意外と少ないです。
だからこそ、学校に戻ることこそが、最も効率的な学習の再開につながる近道です。
理由は以下のとおりです。
- 学習のペースメーカー(先生)が存在する
- 担任や友人との関わりがモチベーションにつながる
- 集団の中で自然に学習習慣が形成される
- 自己効力感が回復しやすい
登校ができれば、自動的に授業にも参加するので「わからないから勉強しなきゃ」と勉強の必要性をリアルに感じることができます。登校する必要があれば、朝も起きるようになります。要は「必要を感じるかどうか」です。
「登校ができないから困っているのに」と思われる方も多いでしょう。しかし、逆なのです。登校しないから、勉強の必要を感じないから勉強もしないし、朝起きる必要がないから起きないのです。
そのため、勉強の遅れを取り戻してから登校できるケースもあるにはありますが、「登校すること」にこだわることの方が結果的に勉強の遅れを取り戻すことに繋がると今までの経験上感じています。
不登校時に通信教育を始める場合のポイント

不登校時の通信教育のリスクについてここまでお話してきましたが、通信教育が必ずしも悪いわけではありません。通信教育が合う子もいるので、その場合はぜひ活用してほしいです。
そのため、もしお子さんが不登校のときに通信教育を試したい場合は、以下のポイントを意識してみてください。
【通信教育成功のポイント①】親が管理しすぎない

親が勉強を管理しようとすればするほど反発が強くなるのが子どもです。そのため「通信教育は続かない方が普通」と考え、完璧主義になったり管理したりして過干渉にならないように気をつけましょう。
「昔お母さんも通信教育したことあるけど、つい宿題忘れるんだよね~」のような共感を示したり、進捗確認は週1回くらいにするなどゆるさを持たせると関係が悪化しにくいです。
【通信教育成功のポイント②】完璧を求めない

できなかった日があっても責めないこと。繰り返しますが、通信教育のような高い自律性が求められるものはできない方が普通です。
1~2日できなくても、ふと思い出した3日目にやったなら良しとしましょう。
たくさん褒めるよりも 「責めない環境」 の方が継続に繋がることも多いです。
【通信教育成功のポイント③】小さく始める

いきなり頑張ると続かないのは大人も一緒ですよね。
- 毎日1問
- 週に1回動画を視聴
など、ハードルを極端に下げると成功率が上がります。
そして「できている自分」「頑張っている実感」を得られると、自己肯定感や自己効力感も上がっていい循環が生まれやすいです。
【通信教育成功のポイント④】生活リズムを最優先にする

勉強も大事ですが、生活の土台を整えることもとても大事です。
生活リズムが崩れて夜型になってしまうと、再登校へのハードルが一段上がってしまいます。「勉強の遅れを取り戻すには、勉強の必要を感じること」だと思うと、やはり再登校が一番合理的なのです。
そのため、子どもを朝に起こす大変さは重々承知の上なのですが、それでも生活リズムは死守してほしいのです。もし「これ以上子どもを朝に起こすのはムリ」と感じたら、それは保護者の方も相当疲れている状態だと思うので、不登校の専門家に相談されてみてはいかがでしょうか。
「不登校中学生×通信教育の現実とリスク」まとめ

通信教育は便利な学び方ですが、不登校の中学生にとってはデメリットも大きい選択肢です。
最も大切なのは、子どものペースと親子関係、そして生活リズムを整えること。
そして、勉強の遅れを本気で取り戻すなら、通信教育よりも 「学校に戻る環境づくり」 のほうがはるかに効果的です。
もし「学校に戻るにはどうしたらいい?」と感じた際は、当協会の初回無料電話カウンセリングでご相談も承りますので、ご連絡くださいね。
